こんにちは、Small ギター・ウクレレ教室の市岡です。
ギターを弾いていると必ず出てくる奏法、スラー(ハンマリング・オン/プリング・オフ)。
「左手だけで音を出す技術」として知られていますが、このスラーがいつ、どのように生まれ、どう発展してきたのかをご存じでしょうか。
実はスラーの歴史を知ると、ギターという楽器が“歌うように演奏される楽器”へ進化してきた過程が見えてきます。
今回は、ギターに特化してスラーの歴史を分かりやすくまとめてみます。
🌱①スラーは「音を滑らかにつなぐ必要」から生まれた
スラーという記号自体は、バロック時代(17世紀)にはすでに存在していました。
当時は主に、
・弦楽器で「ひと弓で弾く」
・管楽器で「タンギングをしない」
・声楽で「一つの母音で複数音を歌う」
といった“奏法の指示”として使われていました。
つまり、スラーの原点は「音を切らずに滑らかにつなげてほしい」という演奏上の指示だったのです。
🎼②ギターにおけるスラーは19世紀初頭に“技術”として確立
ギターでスラーが明確に記述され始めたのは、19世紀初頭(1800年代)です。
特に重要なのが、フェルディナンド・カルリ(F. Carulli) の教本。
カルリは1810年前後の教本の中で、
・上行スラー(ハンマリング・オン)
・下行スラー(プリング・オフ)
を非常に詳しく説明しています。
その内容は驚くほど現代的で、「最初の音を右手で弾き、次の音を左手で叩く/引っ張る」という現在のスラー奏法とほぼ同じです。
つまり、ギターのスラーは19世紀初頭にはすでに完成形に近かったと言えます。
🎶③なぜギターにスラーが必要だったのか?
19世紀のギターは、今よりも
・音量が小さい
・音の伸び(サステイン)が短い
・右手で全て弾くと硬い音になりやすい
という特徴がありました。
そこで作曲家たちは、「ギターをもっと歌わせたい」という思いから、左手だけで音をつなぐスラーを多用し始めます。
スラーを使うと、
・音が滑らかにつながる
・右手の動きが減り、速いパッセージが弾きやすい
・柔らかいレガートが生まれる
というメリットがあり、ギターの“歌う表現”に欠かせない技術となりました。
🎻④ソル、ジュリアーニ、タレガがスラーを芸術的に発展させた
カルリ以降、ギターの大作曲家たちがスラーを積極的に取り入れます。
・フェルナンド・ソル(F. Sor)
・マウロ・ジュリアーニ(M. Giuliani)
・フランシスコ・タレガ(F. Tárrega)
彼らの作品には、
・2音スラー
・連続スラー
・装飾的スラー
・メロディの中に自然に溶け込むスラー
など、さまざまな形のスラーが登場します。
特にタレガは、スラーを使った“歌うような旋律”を得意とし、現代ギターの表現スタイルの基礎を築きました。
🎹⑤現代:スラーは“ギターらしさ”を作る最重要技術へ
現代のクラシックギターでは、スラーは単なるテクニックではなく、ギターらしい音楽表現の核とされています。
理由は、
・ピッキングより柔らかい音が出る
・フレーズが自然につながる
・速いパッセージが滑らかになる
・表現としてのレガートが作りやすい
など、音楽的メリットが非常に大きいからです。
また、教育の現場でもスラーは基礎技術の中でも最重要項目として扱われています。
🎯まとめ:スラーは「ギターを歌わせるため」に生まれた
ギターにおけるスラーの歴史を一言でまとめると、
ギターを“歌う楽器”にするために、左手だけで音をつなぐ技術として発展した。
そして19世紀初頭にはすでに現代とほぼ同じ形で確立されていたことが、カルリの教本から分かります。
スラーは、ギターの音楽性を支える大切な技術。
その歴史を知ることで、スラーの練習にも少し愛着が湧いてくるかもしれません。