まず始めに体験レッスンでは子どもさんの年齢にもよりますが教室に来ていただいてすぐに楽器を使ったレッスンは当教室では致しません。
年齢による違いはもちろん、子どもそれぞれの”手先の器用さ”は違います。それを見極めることなくレッスンを進めていくのは時に無謀と言わざるを得ないからです。
ですので具体的には”ペンを使って直線や丸を書く”、”折り紙で紙飛行機を作る”、”お手玉を投げる・掴む”などして子どもさんの緊張感を緩和しつつまず初めはこうして様子を見ます。
子どもが絵を描く姿を思い描いてみて下さい。子どもは最初は点を描き始めます。肩の関節が自在になり、それを楽しむんですね。次に直線を描き始めます。これは肘の関節が自在になってくるからです。
次第にこの線が曲線になっていきます。柔軟で細かな曲線を描くためには、手首の関節をコントロールできていなければなりません。
最終的に、この曲線は円になります。円を描くためには、描き始めの部分と終わりの部分が繋がらなければなりませんね。そのためには指先の器用さが必要になってきます。
このように、子どもは身体の中心部分から外側に向かって、それぞれの部位を意識し、コントロールできるようになっていきます(肩→肘→手首→指)。
未就学児が文字を不器用に書くのは、方位知覚が未発達だからという理由もありますが、指先が自在に動かせないという身体的な未熟さもあるのです。
生徒さんの身体発達がどの段階にあるのかを知ることは、目の前の子に応じたレッスンをする上で必要な情報となりますね。
手首がようやくコントロールできるようになってきたばかりの子に5本指の指導をしたところで、思うように指を動かせない子は手の形どころではないでしょう。
中嶋恵美子(2016)『知っておきたい幼児の特性 ピアノ・レッスン「なぜ、わからないの?」と悩む前に』、音楽之友社、p.11
少し余談ですがここで幼児の特性を覚えておいてもらうと良いです。
発達心理学の発展に大きな貢献をしたピアジェ博士は理論の中で前操作期(2~7歳)にみられる特徴を下記のように説明しています。
1. 自分の立場から見た関係なら理解できるが他社からの見方を理解できない。思考の基準が子ども自身にある(=自己中心的)。
2. イメージによって思考をする時期、無生物にも生命があると思う「アニミズム」という考え方を持っている。
3. 物の保存の概念が不十分。見た目に惑わされて判断をし、論理的に考えることが難しい。
「対象のうち最も目立つ側面だけに注意を集中して、それ以外の部分を無視すること」
幼児たちにとって譜読みの難しさがこの3番目の”論理的に考えることが難しい”所にあります。
水とビーカーを使ったピアジェの有名な実験があります。
『口径の広いビーカーに水を入れ、その水を子どもの眼前で細長いビーカーに移し替えます。
すると、子どもは高くなった水面ばかりに意識が向き、水の量が増えたと思い込んでしまう。』