
こんにちは、Smallギター・ウクレレ教室の市岡です。
「もし記憶喪失になったら、ギターは弾けるのだろうか?」について。
そんなこと、考えたくもないけれど——演奏者なら一度は気になったことがあるかもしれません。
今回は「記憶喪失になってもギターは弾ける?」という問いを通して、演奏と記憶の不思議な関係を前後編に分けて、紐解いてみたいと思います。
📖記憶の種類を知る——“覚える”にもいろいろある
「記憶」と聞くと、名前や出来事を思い出すことを想像する方が多いかもしれません。でも実は、記憶にはいくつかの種類があり、それぞれまったく違う働きをしています。
大きく分けると、記憶は以下の2つに分類されます.
➀宣言的記憶--言葉で説明できる記憶。意識的に思い出せる。 (名前、住所、出来事、知識など)
②手続き記憶--身体で覚える記憶。無意識に再現される。(歩き方、泳ぎ方、楽器の演奏など)
このうち、演奏や運動、習慣的な動作に関わるのが②「手続き記憶」です。そしてこの記憶は、言葉で説明できないけれど、身体が覚えているという特徴があります。
🍼子どもは“手続き記憶”から始まる
赤ちゃんが寝返りを打つようになり、立ち上がり、歩き出す。
これらの動作は、誰かに言葉で教えられたわけではありません。
それでも、繰り返しの中で身体が覚え、自然とできるようになっていきます。
これはまさに「手続き記憶」の働きです。
一方で、赤ちゃんや幼児期の子どもは、宣言的記憶(言葉で説明できる記憶)がまだ未発達なため、「自分がいつ歩けるようになったか」「どんな気持ちだったか」といった記憶は残っていないことが多いのです。
このことからも、人間の記憶はまず“身体で覚える”ところから始まるということがわかります。
💡記憶喪失と演奏の関係——“忘れても弾ける”記憶がある
「記憶喪失になってもギターは弾けるのか?」
この問いは、記憶の仕組みを知ると、意外な答えが見えてきます。
記憶喪失と聞くと「すべての記憶が消えてしまう」と思われがちですが、実際には失われる記憶の種類によって残るものもあるのです。
🧠失われるのは“宣言的記憶”、残るのは“手続き記憶”
記憶喪失の多くは、名前や出来事、過去の体験などを思い出す「宣言的記憶」が損なわれます。
これは脳の“海馬”という部分が関係していて、ここが傷つくと新しい記憶が作れなくなったり、過去の記憶が思い出せなくなったりします。
一方で、ギターの演奏や歩き方、話し方などは「手続き記憶」によって支えられていて、これは小脳や大脳基底核といった、別の脳領域に保存されています。
そのため、記憶喪失になっても——
- 歩くことができる
- 言葉を話すことができる(語彙は減っても、話し方は残る)
- 楽器を演奏できる場合もある(特に長年の習慣がある場合)
ということが、実際に起こり得るのです。
🎸ギター演奏も“深く刻まれた記憶”で動いている
ギターのコードを押さえる手の形、ストロークのリズム、フレーズの流れ。
これらは、言葉で説明するよりも、身体が覚えている感覚に近いものです。
だからこそ、長年演奏してきた人ほど、記憶喪失になっても“手が勝手に動く”ような感覚が残る可能性があります。
もちろん、すべてのケースでそうなるとは限りませんが、手続き記憶の強さはそれほど深いのです。
後編へ続きます。